
CaravanやKEISONといったアーティストの活躍により、サーフロックというキーワードが日本でも完全に市民権を得、フォーキーでオーガニックなサウンドは、野外フェスやライブハウス、CDショップなど、それぞれのシーンにしっかりと定着した。
そのCaravanやSpinna
B-ill & The Cavemansを輩出したアーロンフィールドから、新たなアーティストがデビューを果たす。mammy
Sinoは、こわれもののような繊細さを持ちながら、懐の深いおおらかさと包容力を備えたシンガーだ。まだ24歳とは思えない堂々たる歌声、そして愛に満ちた世界観。土臭さとおおらかさ、そしてそこに研ぎ澄まされた感覚を持つのはアーロンフィールドのアーティストならでは、とも言えるだろう。とりわけ彼女には、オーセンティックな響き、伝統的な楽曲を新しく聴かせることのできる腕力がある。
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Sinoが6月20日にリリースする『ココロノウタ』は、彼女が愛する洋楽スタンダード・ナンバーにより纏められている。オープニングを飾るのは、アイルランドに伝わるトラディショナル・ソング「DANNY
BOY」。近年ではエリック・クラプトンによるカバーが秀逸であるが、彼女はこの曲をアカペラで、まるで天使のような神聖さを持って歌う。
続いての「500Miles」はピーター・ポール・アンド・マリーが1962年に発表したフォークの定番曲。マンドリンとアコースティック楽器をメインにしたアレンジメントは、郷愁とともに、不思議なリアリティを呼んでいる。
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Sinoの荘厳な歌声を最も感じられるのが「SCARBOROUGH FAIR」であろう。サイモン・アンド・ガーファンクルによる歌唱が映画『卒業』で印象的に使われた、イギリスのトラッドである。古典的な楽曲をストリングスを加えたアレンジで描き出している。
「WALK
AWAY」はベン・ハーパーの1994年の傑作『Welcome to the Cruel World』からの彼の代表曲。原曲の訥々とアコースティック・ギター一本でつま弾かれるアレンジを踏襲しつつ、土臭さと都会的ハードボイルドな感覚の世界観を構築することに成功している。あえて扇情的な表現を抑えたような淡々とした歌声が、かえって楽曲の世界観をはっきりと伝えている。
「Shiver
Me Timbers」はトム・ウェイツの1974年に発表された名盤『The Heart of Saturday Night』に収録されている彷徨う心を捉えたナンバー。この楽曲には先輩Caravanがギターで参加しており、一発録り的な生々しさとともに、和製ノラ・ジョーンズと形容したくなる、ジャジーなテイストも持ち合わせているところに注目して欲しい。
続いての「Feed
Back」は、そのCaravanのファースト・アルバム『RAW LIFE MUSIC』(2004年)の冒頭を飾る、心に染みるナンバー。移り変わる風景と季節、旅立ちの不安と期待を、先輩にひけをとらぬ表現力で見事に歌い上げている。「DESPERADO」はイーグルスの1973年に発表されたセカンド・アルバムからのタイトル曲。カントリー・フレイバーのアーシーなウェスト・コースト・サウンドを、ピアノとウッドベースのシンプルな編成をバックに情感豊かに表現。
そしてこの「DESPERADO」を取り上げたことのあるカーペンターズの永遠の名曲「YESTERDAY
ONCE MORE」。とかく甘く聞こえがちなカーペンターズの楽曲を、その本質にあるメランコリーを捉え、ビターな味わいで解釈するところはmammy
Sinoの真骨頂と言えるだろう。
この「YESTERDAY ONCE MORE」で歌われるように、〈昔ラジオで聴いた懐かしい歌〉、クラシックと呼べる名曲群に敬意を払いながら、ここまで自らのカラーに染め上げ、表現していることに驚かざるを得ない。
今作は彼女の透明感ある歌声を中心に、前述のCaravanのほかにもsleep
warpのタバタカズト(ギター)、ex. The CavemansのナオヤG(パーカッション)、Caravanほか数多くのアーティストのサポートを手がける伊賀航(ウッドベース)、多くのアーティストのプロデュースで知られる前崎史郎(ピアノ)、ティン・パン・アレーの雰囲気を現代に甦らせるシンガー・ソングライターYANCY(オルガン)など、名うてのミュージシャンとともに制作されている。60年代から2000年代まで異なる時代背景の楽曲をここまでひとつのアルバムとしてまとめあげたことも賞賛すべきだし、同時に、音楽ファンとしては、オリジナルの楽曲/アーティストとの関係性を楽しんでみると、さらにこのアルバムを深みを持って味わうことができると思う。
名前からうかがえるように、彼女は実生活では一児の母であるが、女性だから、母親だからということを抜きにして、その母性的な愛の美しさと、その超えられない壁というのも知っているに違いない。だからこそ、恒久的な愛、普遍的な愛を求める音楽として、彼女の歌は響く。世界の絶望や哀しみを肌で感じながら、彼女の歌は深く、聴く者の心を動かす。mammy
Sinoの歌にある〈癒し〉は、決して単なるなごみではなく、人の心を動かす原動力としてのヒーリング・ミュージックである。とても透き通った美しさを持っているけれど、それは自らを深く知る者が出せる、人間臭くエネルギッシュな美しさだ。『ココロノウタ』には、イノセントと、それと同時に多くの困難や葛藤を繰り返してきた、人間としての刻まれた皺のような精神的な深みの両方を感じることができる。mammy
Sinoの新たな第一歩となったこの作品をじっくりと味わい、これからのオリジナル作品や新境地を楽しみに待つことにしよう。
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